第22回 飛騨民家お手入れお助け隊 活動報告 (飛騨市古川町太江内)
- 開催日
- 2014年12月7日
- 参加者数:
- 9名
大雪の中の集合
2014年12月初旬、例年より早く降り始めた雪がしんしんと積もる中、年末の多忙極まる時期にもかかわらず、6名のお助け隊ボランティアが集まってくださいました。今回お手入れをさせて頂く民家は、古川と神岡をつなぐ神原峠の入口に位置する飛騨市古川町太江地区にあるTさんのお宅です。Tさんのお宅は、高山市から現在の太江へ移築されたのが100年以上前、築年数では200年を超えるという、まさに古民家と呼ぶに相応しい古民家です。梁の太さや囲炉裏の上の煤を浴びた天井に、何世代も家族を見守ってきた逞しさや温かさ、歴史の重みを感じずにはいられません。
ご参加ありがとうございます
今回のボランティアの参加者は、皆さん古民家再生に情熱をお持ちなのは勿論なのですが、何と半数以上はリピーターとして何度もお助け隊に参加してくださっている方々です。並々ならぬ古民家への愛情の深さに頭が下がります。大雪の中、朝早くから岐阜市から駆けつけてくださった御夫妻もいらっしゃいました。さらに今回は、飛騨市職員の方の参加もありました。行政からの参加は、22回のお助け隊開催で実は初。古民家や空家の再生は飛騨市にとって大きな課題です。官民が共に取り組んで、文化としての家屋を残し町の活性化に繋げることは必須。今回の活動がその先駆けになることを願います。
作業スタート! 冬ならではの分担も・・・
作業を始める前に、家主さんからのご挨拶をいただき、参加者の簡単な自己紹介をした後、お助け隊隊長から作業の手順や分担、注意事項の説明を受けました。屋内の作業箇所は、玄関とその隣に位置する座敷に設えてある梁、柱、襖、などの主に木製の部分です。さらに今回は、いよいよ到来した長い冬に備えて家の外の雪囲いも含まれます。
炭の爆ぜる音を聞きながら
急な寒波に見舞われたお助け隊当日「皆さん寒かろう。」との家主さんのご配慮で、作業箇所の中心となる座敷の囲炉裏に炭をくべて火を熾してくださいました。今回のお助け隊は、炭のパチパチと爆ぜる音を聞きながら、家全体を温めてくれる囲炉裏の火に守られながらの、何とも趣のある空間で行われました。
結果が見えて楽しい水拭き
天井の高い玄関に横たわる逞しい梁や、座敷の鴨居を磨くのには、脚立で組んだ足場が必要です。ここは長身の男性陣が担当しました。座敷の年季の入った柱や、格子の嵌った木戸は女性陣の担当。家主さんのお話では、これまで梁や柱はほとんど掃除した記憶はない、とのこと。木目に沿って水拭きすると、長年積もった埃や煤で、雑巾はあっという間に真っ黒になってしまいます。雑巾を洗うバケツの水も、同じようにすぐに真っ黒に。これだけ汚れが落ちれば、掃除のし甲斐もあるというものです。木に向かい、黙々と拭き続けるボランティアのみなさんの表情は真剣そのもの。まるで、雑巾を当てる手から、木に命を注ぎ込んでいるかのようでした。または逆にエネルギーを木から注がれていたのでしょうか。梁も柱も何度か繰り返し拭くと、雑巾に汚れがつかないようになります。ここまで来ると木の地の色が現れて、部屋がぱっと明るくなったように感じられます。ボランティアの方の一人が「見て、私拭いた所、きれいになったわー。」と漏らしたときの晴れ晴れとした笑顔が印象的でした。
外側からも家を守る
さて、外の雪囲いチームを見に行きましょう。今回は自宅の雪囲いの予習をしたかったボランティアのHさんと美ら地球のスタッフが担当してくれました。家主さんの指示に従いながら、雪の舞う中、木を立て横木を組み、雪囲いを完成させました。冬の間雪から家を守り、防寒の役目も果たす雪囲い。作業に当たってくれたお二人も、貴重な体験になったのではないかと思います。寒い中お疲れ様でした。
艶を増す木、寿命を延ばす民家
梁や柱の水拭きが済んだら、次は磨きの作業です。少し炒って温めた米ぬかを木綿の袋に入れたもので丹念に磨いていきます。米ぬかから染み出した油が木に馴染んでいくと、見る間に梁や柱に光沢が生まれます。水拭きで汚れが落ちた時点では、木は地の色は現れたものの、まだ黒っぽく乾燥したように見えていたのが、米ぬかで磨いた後には何となく赤黒く湿り気を帯びてきたように見えました。更に艶を出すために最後に荏胡麻油を染みこませた柔らかい布で、木目に沿って撫でていきます。香ばしい荏胡麻の香りが部屋に広がるとともに、柱や梁がいよいよ艶を増し、手で撫でた感触も滑らかで、まるで生き物のような生々しさを感じるほどでした。参加者の皆さんのほとんどはリピーター、米糠袋や荏胡麻油の威力を何度も経験済みです。拭けば拭くほど光沢が増すので、糠袋や荏胡麻油で拭き上げる手も中々止まりません。時間を忘れ集中して取り組んでいます。お昼まであと少し!
お待ちかね、お昼です!
全ての作業箇所が清々しく整った頃、家主さんからお昼のお声がかかりました。座敷の囲炉裏周りに全員集合。ボランティアのみなさんの表情も達成感で爽やか。さらに、我々を取り囲む、煤が落ち艶を纏った軸組の木々は作業開始前よりも部屋を明るく見せてくれます。
古民家お手入れ修了証
ここで、お助け隊終了の証として「伝統ある古民家のお手入れ修了証」の木札に参加者全員の名前を書いて家主さんにお渡しします。今回家主さんに渡す任を命じられたのは、飛騨市役所からご参加のIさん。お助け隊長からの急な指名に戸惑いながらも「大変貴重な体験をさせていただき、家主さん始め皆さんに感謝します。住みよい町作りのために、このように市民と一緒にする活動に参加し問題や要望を救い取っていきたい。」と挨拶を添えて、参加者全員が見守る中、「お助け隊終了木札」を家主さんにお渡ししました。
飛騨三昧のご馳走に ただただ感謝です
いよいよ待ちに待った、お昼ご飯です。飛騨の食材をふんだんに使った手作り郷土料理の数々をふるまっていただきました。貴重なお家をお手入れさせていただくだけで有難いのに、このようなお気遣いまでいただき感謝に尽きません。食事は家主さんのご家族も一緒に、掃除が済んだばかりの大座敷の囲炉裏の火を囲んでいただきました。おにぎりやおはぎの米は今年の新米、しかも稲架干しのお米を使ってくださったそうです。囲炉裏の炭火で焼いた朴葉味噌や火鉢で焼いた鉄板の漬物ステーキは初めて口にする参加者も多かったのではないでしょうか。具だくさんの豚汁が、3時間に及ぶ集中の糸をほっと柔らげてくれました。
手作り料理に下鼓をうち、心もお腹もほっこり温まった頃、家主さんに家の歴史をお話していただきました。戦前までは二階の部屋で養蚕をなさっていたそうです。最後に家主さんの案内で、二階の養蚕部屋を見学させていただきました。
家主さんより
今回のお助け隊は、本当にありがたかった。これまでここに住んできた自分の記憶では、このように手間をかけて丁寧に掃除をしたことはなかった。木も家も綺麗になって喜んでいるのではないか。自分たち夫婦も年をとって、なかなか今回のような掃除は難しい。しかしこの家は、まだまだ達者で活かされていくだろう。今回こんなに綺麗になったからあと100年間は掃除をしなくても大丈夫だろう。皆さんありがとう。
家主さん奥様より
こうやって若い人たちが家に来てくれて、掃除までしてくれて、このような機会に恵まれたことに感謝しています。若い皆さんに会って、自分も若返って元気が出てきたような気がする。古い大きな家で大変だなと思ったこともこれまであったけれど、このような素晴らしい機会に恵まれたのも、この家があったお陰です。この家にも感謝しています。今は自分たち夫婦しか住んでいないけど、このような伝統を持った家を大切に守って行かなければという気持ちが強まりました。皆さんが働く姿を見て更に強く思うようになりました。どうもありがとう。
最後に
今回初めて運営に関わらせていただき、おぼつかない部分も多々もありましたが、家主さん、リピーターボランティアの方々の心強いサポートのお陰で第22回目のお助け隊を無事に終えることができました。ボランティアの皆さんに心から感謝します。ありがとうございました。
我々の気持ちに応えるかのように、柱は磨けば磨くほど艶を増す梁や柱はまるで、眠っていた木が目を覚まして息を吹き返すかのようでした。そして木の呼吸によって家全体が活力を高めていくかのようでした。木という生き物で出来ている家だからこそ人によって長く活かされる、そして家が長く人を生かしてくれるのではないか、今回の活動で木と家と人の関係をそのように感じました。
家主さんものお話にもありましたが、古い大きな家に住むのには、苦労や不便も少なからずあるそうです。便利な道具と快適な空間に生活することに慣れた私たちが、古民家に住むことに付随する不便を避け続けていれば、この先の古民家再生や活用の道は細くなる一方でしょう。今回の活動のように民家の煤を払い、家に艶と活力を取り戻すことは古民家再生の手段として不可欠です。が、それと並行して、古民家を活用するために必要なのは、我々人間の生活力を養うこと、つまり古民家に住まうための暮らしの知恵や工夫を継承し身につけていくことではないでしょうか。古民家に暮らす知恵や技術を学ぶ機会を設けることも、民家活性化プロジェクトに必要な活動の一つではないかと思いました。