第16回 高山市丹生川町北方内
- 開催日
- 2012年8月5日
- 参加者数:
- 14名
「温故知新」を知る
盛夏の8月、周りを青々とした田に囲まれた美しい集落。今回のお手入れお助け隊は、築130年以上経った間口9間×奥行6間の古民家で行われました。70代のご主人は、古きものを愛し尊び、昔からの暮らしを大切に守ることにこだわりを持たれ、今でもざしきにある囲炉裏では楢の木の薪が焚かれ、梁やツシゴからは炭の匂いを感じ、建物の間取り等から当初の形態を随所に見ることができます。また、このお宅の伝統を継ぐ「歳取り」の様子が今年も新聞等で取り扱われたそうです。
ご主人は元大工さんのため、現在も農業のかたわら、時間を見つけて板倉や家の裏の石積みをご自身で手掛けておられます。普段はなかなか広い民家の隅々まで手が回り切れてないとのことで、私達を温かく迎えてくださいました。元大工さんならではの、意匠にまつわるお話や、古民家でのこだわりに溢れた暮らしについてのお話を伺いながら、参加者の皆さんと交流します。
お手入れの様子
今回は、これまでにもご参加頂いているリピーターの方が多く、大工さん・木工職人さん、自ら古民家を譲り受け少しずつ改装に取り組んでいらっしゃる方などが参加されており、段取りも良くスムーズに作業が進んでいきました。
こちらの古民家も飛騨高山地域に残る大半の古民家同様、継手・組手のみで建てられており、ボルト止めは一切なく、釘も1本も使われていません。結果、耐震性にも優れ、地震の揺れを最小限にとどめることができる木造建築のメリットを活かした造りになっています。手に触れる材ひとつひとつが、これまでの歴史を語っているかのようです。
まずは女子が玄関周りの木扉や柱を、男子が梯子で足場を作っていき玄関や奥間の天井の梁の部分を水拭きすることから始まります。何度も何度も雑巾をゆすぎ、水拭きしていきます。その後は米ぬかで磨きます。精米店さんからいただく新鮮な米ぬかは美容と健康にも大変よいらしく、毎日スプーン1杯ずつ食べると、特に女性には嬉しい効用があるそうです。最後に荏の油や胡桃の実を使って磨いていきます。胡桃の実は貴重ですし、大量に用意できないので、大黒柱や恵比寿柱などの家の主となる部分を磨くのに使います。みるみるうちに色艶が出てきて自分の顔が映る鏡のようになっていきます。
お手入れの途中で、「休憩しまーす」のお声が掛かり、麦茶とカブのお漬物、そしてご主人が栽培しているという新鮮な採れたてトマトが振る舞われました。参加者全員エネルギーチャージされて、一息ついた後はさらにいいテンポでお手入れが進んでいきます。見違えるように輝いてくる柱は命を吹き込まれたように活き活きとして見えてきます。
ご主人を囲んで
お手入れの後は、待ちに待った昼食タイムです。今回は、炊事班担当スタッフが能登出身ということもあって、いつもの豚汁に代わり地元でよく食べるという「とり野菜みそ鍋」が用意されました。加えて、ご主人の畑で採れたトマトやキュウリなどの新鮮な野菜の数々が食卓に彩りを添えます。まだまだ暑い盛りの中のお手入れでしたので、適度な塩分が効いた汁に、みんなの箸も進みます。食後には、ご主人のご厚意で地域指定文化財になっている「円空仏聖観音像」を見せていただくことができました。大変貴重なものを参加者全員が手に取ってじっくり鑑賞できるなんて、贅沢な経験をさせていただきました。ご主人によると、350年ほど昔に円空商人が彫られた木像らしく、飛騨中を旅されたときにこちらのお宅にも宿泊され、お礼として置いていかれたものらしいです。各人昔に思いを馳せながら、お手入れ後のひとときを満喫しました。
参加者からのコメント
- 古民家にも味があって立派な威厳があるが、それ以上に大家さんの人格は素晴らしいものであった。こういった古民家が次代にも継承されていくような仕組みが今後もっとできていったら良いなと思う。(20代 女性)
- 古民家の梁や柱は色艶も美しく、古きものを大切にする心も、母国フランスの人と共通するところがたくさんあって、共感できます。(20代 女性)
- 関西出身なのですが、以前から飛騨高山地域の古民家に興味があった。今日はその古民家に実際にお邪魔して、見て、触れることができ、とてもいい時間を過ごすことができた。(30代 男性)
- 現在、古民家に住んでいるけれど、お手入れの方法を知ることができて良かった。(30代 女性)
- 大工の仕事をしているので、素晴らしい意匠を間近に見ることができてありがたい。これだけ昔のまま残っている民家は大変貴重。守っていくべき宝だと思う。(50代 男性)
- 自然の木の形や反りをそのまま最大限に活かし、かつ計算されつくされた飛騨の匠の技には改めて感嘆する。(30代 男性)