第2回 飛騨市古川町弐之町

開催日
2009年12月25日
参加者数:
5名

今回のお手入れは「町家」

今回のお手入れ物件は、飛騨市古川町弐ノ町の古い町家の一部を現代の生活に合わせて住みやすくリフォームしたお宅です。リフォームとはいえ、元々の家の材と造りや間取りがそのまま活かされており、また古川町市街地の古い町並みの景観が意識された、「再生」物件ともいえます。

家の間口には町家ならではの格子窓。通りに面する窓から家の中が簡単に見えないよう、現代で言う「カーテン」の役割があり、規則正しく整然と並ぶ格子が通りを歩く人々に清々しい印象を与えています。そして、家の顔でともいえる玄関の上の太いまぐさ(胴差しの部分)は、その家の持つ歴史と内部の伝統的な匠の技が活かされている構造を物語ります。

玄関を開けると、広い土間です。土間は「路地(ろじ)」とも呼ばれ、今回のY邸のように玄関から家の裏側まで続く長い路地を「通し(とおし)路地」といいます。路地からは一方行に部屋が並んでおり、通り側から「前みせ」・「中みせ」・居間と続き、その奥には家の通気性・採光性を高める「箱庭(はこにわ)」があります。前・中みせは座敷のような役割で、前みせは訪ねてきた客をもてなすスペース、また中みせには囲炉裏があります。そして長細い敷地で薄暗くなりがちな家の中心部に光を取り入れる為に、路地の中ほどには「吹き抜け(ふきぬけ)」があり、囲炉裏の煙は吹き抜けを通して暖気を家の上部へと送りながら天井の「煙出し」から外へ出て行きます。2階・3階への階段が囲むこの吹き抜けは、とても明るく開放感があり、家を支える木の梁が張り巡らされている様は、繊細ながらとてもダイナミックな印象です。

広々とした農村地域の古民家とは違い、市街地の限られたスペースで快適に暮らすための知恵がちりばめられた「町家」が今回のお手入れ物件。Iターンの育児中核家族は、「お手入れしたくても、するヒマなんてあるわけない!・・・でもせっかくなので、キレイな町家で住みたい」、そしてお手入れお助け隊にとっては「他人のお宅をお手入れするよりも、まずは手近なところから始めてこそのボランティア」ということで開催が決定しました。プロジェクト責任者の自宅ということで気兼ねなく存分にその成果を発揮でき、3ヶ月間のプロジェクトで身につけた知識や情報をお互いに交換・共有しながらの中間集大成も兼ねての今回。季節は師走も差し迫った25日。Y邸の歳末大掃除をお助けするべく、飛騨民家お手入れお助け隊(と、スペシャルスタッフとして3歳の娘さん)の出動です。

古町家のツヤ出しお手入れ

今回お手入れをする箇所は玄関のまぐさと格子・土間の腰板(腰の高さよりも下の壁板部分)と柱・吹き抜けの梁・階段・路地部分の壁板と柱です。お手入れの方法は、昔ながらの植物性の油を使ったツヤ出し作業です。

家中に張り巡らされた太い梁、大きな壁板・柱などは、まず水拭きで一年間の埃を取り除きます。少しでも埃がついていると、次に塗る米ぬかなどの油分にムラができたりして上手く浸透しないため、隅々まできれいに拭き取ります。水拭きが終わり、その水分が乾いたところで米ぬかを入れた綿の袋で擦りつけます。擦っていくうちに袋の中の米ぬかから油分が染み出してツヤが出てきますが、袋の中の米ぬかを擦りながら揉みこんでいかないとなかなか油分が出てこないので、かなり根気のいる作業です。米ぬかのクッションがあるので柱や壁に傷がつくことは無い為、力一杯ゴシゴシと擦りつけます。そうしているうちにゆっくりと油分が染み出して、木の木目が段々とはっきり見えてきます。その後、荏の油(えのあぶら:エゴマの油)で磨いていきます。薄づきの米ぬかとは違い、天然のワックスに近い荏の油は塗った後も多少のベトつきが残るので、主に普段人の手が触ることのない高い場所にある梁などに使われますが、今回は年に一度の大掃除ということもあり、柱や壁板なども全て荏の油で磨きました。灯油ストーブで温めてノビを良くした荏の油を雑巾につけて、サッと一塗りすると木目が一段と引き立ち、さらに磨きこんでいくことで独特の光沢が出てきます。太い梁は渋く重厚な光りを放ち、壁板や柱はやわらかな木目も美しい透明感のあるツヤがよみがえりました。そして、この日磨いた箇所は、一晩おいてもう一度カラ拭きをすることで油分がさらに浸透しやすくなり、この効果が長期間持続するそうです。

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今回の作業は、プロジェクトの関係者宅であり参加者もスタッフのみということで、作業の段取りや手順がスムーズに行われました。その中でお助け隊スタッフがお手入れ方法の再確認ができ、次回からのボランティアスタッフを迎えてのお助け隊を開催する為の勉強会として、とてもよい機会であったと思います。実際のお手入れをする上での細かな問題点(畳の上での脚立の使用法など)も見えてきました。

前回のお助け隊同様、磨き上げた梁・壁板・柱などには充実した達成感があったわけですが、ある意味、お助け隊スタッフが自ら作業を行うので「きれいになって当然」なのだと思います。「一通りのお手入れができる」お助け隊スタッフの次の課題は、「古民家のお手入れの楽しさと、お手入れをする意味を伝えることができる」スタッフになることです。それを知っていただくことで、お手入れ物件の家主には「磨けば光る!自分の家の持つ本当の美しさ」、またボランティアスタッフには「重厚なだけでなく、しなやかな木目輝く飛騨民家」を感じていただけるようなお助け隊を開催することを目標とし、我々お助け隊の発起人としての意識を磨いていけたらと思います。