民家は地域の暮らしの知恵と大工技術の結晶です。飛騨地方は、大和時代から飛騨の匠と呼ばれる腕利きの大工が活躍し、今も匠の技が随所にみられる美しく立派な文化財級民家が点在しています。
しかし、林業、農業の縮小、都市部への人口流出等により、住み継ぐ人がいなくなり、長い歴史を刻んだ飛騨民家は1軒、また1軒と姿を消しています。
私たちは1人でも多くの方と飛騨民家の素晴らしさを共有し、1軒でも多く次代に継承すべく、ひだ民家プロジェクトと称して、民家調査、ボランティア活動、民家の活用を行っています。
飛騨民家とは
現在見られる飛騨の民家の多くは、切妻2階建て、トタン葺きで、軒がかなり深く、太い垂木、軒下の小腕に意匠があります。大屋根は勾配はやや緩やか。これは元々クレ板葺きに石置きだったためで、白川郷に代表される合掌造りの急勾配とは対照的です。中に入れば、黒光りする重厚な柱と梁が見事、今では得難い材が贅沢に使われています。江戸中期に養蚕が盛んになり、現在見られる民家が発達しました。大屋根の乗った2階は、養蚕部屋として生まれたもので、天井は低く、屋根裏部屋のようになっています。
在郷(ざいご, ざい)と呼ばれる市街地外の地域では、神様が当番の家に「宿」をとり、数日間をかけて地域内の各家を回って練り歩いたそうですが、この「宿」の当番になっ た家には神様がいらっしゃること、村の人が沢山訪れることから、祭の「宿」になるという理由だけで気合を入れて家を建て直すお宅もあったそうです。立派 な家を持つことはかつて、一家の周囲に対する見栄であり、また家そのものがかけがえのない財産・誇りだったのです。
民家調査
民家調査は、おおむね築50年以上と思われる飛騨の民家を対象に、2009年10月より開始。2012年までの3年に渡り、約1300軒のお宅を一件一件聞き取り調査しました。調査結果からは、飛騨地域に文化財級の立派な民家が点在していること、その既に2割が空家、2名以下での居住が3割、後継者がいないお宅は確認できただけで3割あることがわかりました。このままいけば、飛騨の民家は20年後にはいったいどれだけ消えてしまうのでしょうか・・・。
調査では、単に家屋を調査するだけでなく、住み手の方に、家の歴史、現状のお話などもおききします。家について語りあうことによって、住まい手の方が自らの家の価値を再認識し、残していこうと思うきっかけになればとも考えています。
飛騨民家のお手入れお助け隊
「わたしらだけで住むには家が広すぎて、もう何年も柱も梁も昔みたいには磨いとらん」
そう語られる方が多くいらっしゃいます。
岐阜県飛騨地方にある伝統的な工法で戦前に建築された農家民家の多くは、どれも太い柱や巨大な梁を構え、今では考えられないほどとても堅牢で立派な造りになっています。かつてはお盆の頃や新年を迎える前になると、一家総出で大切にお手入れをされていましたが、現在ではそれまでのようなお手入れを行うことが大きな負担となっています。
そうした農家民家に我々が押しかけ、お手入れのお手伝いをさせていただければ、住人の方に自分の家の価値に改めて気づいていただくことが出来、飛騨の伝統的な民家を後世まで残し伝えることにつながるのではないか。
そんな考えから、飛騨民家のお手入れをお手伝いする「飛騨民家のお手入れお助け隊」を実施しています。
飛騨里山オフィス
民家調査から、飛騨の民家は養蚕をされていたところが多く、非常に大きなものが多いことがわかりました。今の核家族中心の生活には大きすぎる感もあるのです。そこでその大きさを活かし、企業のオフサイトオフィスとして活用したらどうか、というアイデアから生まれたのが飛騨里山オフィスです。地元工務店柳組とタッグを組み、2012年よりプロジェクトを開始。都会のフリーランスの方、IT企業、外国人のロングステイ等のニーズに応えると同時に、3件の空家に新しい風を吹き込むことができました。